『──キラもそのうちプラントに来るんだろ?』
あの時、悲しい気持ちとは対照的にはらはらと舞う桜の花びらがとても綺麗で…──
「…また今年も咲いたね…」
そう春が来たことを喜んでいるかのように咲く桜の木を見上げた。
桜舞い散る
「やっぱりまだ夜は冷えるよな…キラ、大丈夫か?」
「うん、何とか…」
昼間来た時の暖かさは消え、また寒さに包まれる夜。それでもだいぶ薄着でも大丈夫になってきたんじゃないかと思う。
そんな中、僕はアスランに手を引かれながら桜並木の下を歩く。
『花見に行くぞ!』
カガリの提案でここに来た僕たち。「お花見と言ったらお酒ですわね」とラクスとカガリの二人がかりで僕は飲まされて。…アスランも飲まされたくせに、殆んど変わらない顔色に何だか悔しくなってしまった。
「だいぶ飲まされてたもんな、お前」
「わ、笑わないでよ…っ」
まだ頬に熱さが残る僕を見てアスランがクスッと笑う。唇を尖がらせてアスランの方を見ると、目の前に桜の花びらが落ちてきた。
「あ…」
思わず取ろうとしたけど、それはひらりと僕の手をすり抜けて地面に落ちる。僕のがっかりしたような顔を見て、またアスランが笑った。
「ちょっとアスランっ?!」
「ごめん、キラ相変わらず無器用だなぁって…」
「えぇっ?!」
「だってこんなの……ほら」
「あ…」
ひょいっと落ちてきた花びらをいとも簡単そうに捕まえて、僕の前で掌を開くアスラン。そこには薄桃色の花びらが乗っていた。
「………」
差し出されたその花びらを指先でそっと摘んでじっと眺める。
「キラ?」
「…何かあの時と似てるなって…」
トリィを貰ったあの日。桜がひらひらと舞い散って…綺麗なのが余計に悲しく思えて……
「あれから桜が咲く度にあの時のことを思い出して、悲しくなってたりしたんだよね…」
そう花びらを見ながら呟くと、アスランの掌が僕の頬を包んだ。
「キラ…」
「ん…っ」
唇に触れる柔らかい感触。見上げるとアスランの綺麗な顔がすぐ目の前にあって。
「今は近くにいるよ…」
「アス…ん…ンっ…」
囁かれながら、開きかけた唇をまた塞がれた。
「ん…ンぅ…?」
口内に侵入してくるアスランの舌に、おずおずと自分の舌を絡める。アスランのキスはいつも溶けてしまいそうで……力が抜けていく躰を支えようと、僕はアスランにしがみついた。
「ン…ふぇ…?」
「キラ、こっちおいで…」
唇が離れてすっかりまどろんだ意識の中、アスランに引かれて桜並木の中に入る。通りと少し離れた桜の木の幹に僕は縫い付けられた。
「アスラン…何するの…?」
「…記憶の上塗り」
「え?あ…っ」
上着の中にアスランの手が入ってくる。少しひんやりしたそれにビクッとする僕の素肌を撫で回した。
「や…やだ、こんなとこで…んっ!?」
アスランの舌が僕の耳の窪みを舐める。クチュリ…と聴こえる音に思わずゾクッとする。
そして撫で回していたアスランの指が胸の突起に触れた。
「んン…っ」
上がりそうになる声を飲み込む。アスランは首筋を舌で這いながら突起を弄りだした。
「…固くなってきた」
「や…っ」
そんな風に耳に息を吹きかけながら囁くなんてズルイと思う。冷めていたお酒の熱りとは違った熱が僕の躰に沸き上がってくる。
「あ…だめ…ッ」
ズルッと下ろされるズボン。ひんやりとした外気に晒されたそこは、恥ずかしいくらい張り詰めてしまっていた。
「キ〜ラ、これでもまだ『嫌』って言うのか?」
「んっ…いじわる…」
笑いながらそれに触れられてビクビクと震える。ギュッと目を瞑っていると、アスランの気配が消えて。そっと目を開くと僕の足元に屈んで、まさに僕自身を咥えようとしているアスランが目に入った。
「ッだ、だめ…や…あぁ…っ」
生温かいアスランの口内に包まれて思わず上擦ってしまう声。敏感なそれにねっとりと舌を這わされて、僕はアスランの頭を抱え込むようにして快楽に耐える。そんな僕を煽るかのようにアスランは先端を吸い上げた。
「ひゃ、あ…あぁっ…そんな…出ちゃ…ぁ?」
その時、水音をたてて離れるアスランの唇。限界まで追い詰められて解放された僕のそこからはとろとろと蜜が溢れ落ちる。
「イキたかった?キラの、ビクビクしてる…」
「い…やぁ…っ…」
目の前でそれを見つめられて、更に溢れてくるのが自分でもわかって体温が更に上がる。
「キラの顔、厭らし過ぎ…」
「んっ…ンふ」
立ち上がったアスランの唇がまた重なって、口内を貪られて。そして片足を持ち上げられ、後ろにアスランの指が触れた。
「んく…っ」
クチュ…っと湿った音が響く。
(やだ…僕…っ)
こんな外で、こんなことされてるのに…そんなことを考えて顔を歪めていると、アスランの長い指が中に入ってきた。
「んンっ…んう」
壁を撫で付けるようにして奥まで挿入される指。片足だけで崩れ落ちそうになる躰を幹に押し付けられて、中を掻き回される。
「んふ…ぅ…く…ン」
舌を絡めては飲み込めきれない唾液が顎を伝って落ちて。前立腺を霞めては浅く引き抜くアスランの指に躰が痙攣しだす。
「んぁ…や…アスラ…もぉ…」
「いいんじゃないのか?これ…」
「あぁっ…違…アスランの…ほしい…」
指じゃなくてアスランがそこに欲しい…僕はたまらなくなって唇を離すとアスランを見つめた。
「キラ、可愛いよ…」
「ふぁ…アス…」
額にキスされながら、取り出されたアスランの塊が濡れた蕾を擦る。
「キラ…」
「んぁ…っ」
狭い入り口を押し広げて入ってくる塊に、僕はアスランの首にしがみついた。
足を高く持ち上げられて奥までアスランが入ってくる。
「はぁ…あ…っ」
中を一杯に満たす楔に、桜の幹に押し付けるように背中を反らして。熱いアスランのそれを埋められただけで僕の躰は快楽に飲み込まれてビクビクと震えた。
「あぁ…っ…アスラ…の…気持ちい…」
「…めずらしいな、お前がそんなこと言うなんて…まだ酔ってるのか?」
思わず出た言葉にアスランが反応する。いつも恥ずかしくて嫌とかしか言えない僕にアスランが嬉しそうに耳元で囁く。
──うん、そうだね…僕はまだ酔ってるのかもしれない。うっすらと目を開けると飛び込んでくるピンク色が幻想的に思えてくるから…
「あ…」
「キラ?」
「記憶の…上塗りって…」
「そう、こういうこと…」
「あっ…あぁ…ッ」
いったん引いた腰をぐっと押し込まれて僕は声を上げる。
「これから桜見たら、こうしたことも思い出すだろ?」
「んっ…あ…アァッ」
そうアスランは昂ぶった塊で僕の中を突いてきた。
「はぁ…っ…あぁ…アス…ッ」
少し無理がある体勢だけに、それを保とうとすると力が入って中のアスランを余計に感じてしまう。こんな外なのに…と思っても溢れてしまう声を抑えることが叶わなくなっていく。
「キラ、ちょっと力抜いてて…」
「え…あ、やぁ…っ?!」
何とか支えていた片足までをアスランに持ち上げられて。膝裏から腕を回されて大きく開かれる僕の両足。アスランの塊が更に奥まで埋まって、思わず悲鳴に近い声を上げてしまった。
「ひぁ…あ…アァ…ッ」
「これでキラの中に全部入ったな…」
「は…ぁ…アスラ…ぁ」
背中に痛いくらいに幹を感じて、首にすがることしか出来ない僕をアスランがゆっくりと揺らし出す。その度に水音と、肌と肌がぶつかり合う乾いた音が暗闇に響いて。僕は過敏になった粘膜を擦られ、押し寄せる快楽のままに声を上げた。
「あ…っあぁッ」
「キラ…いい…?」
「はぁ…アスぅ…いぃ…っ…気持ち…い…」
唇を震わせて必死に頷く。
「俺も…っ…桜を見たら…キラを思い出すよ…」
「桜みたいに染まった顔も…可愛く喘ぐ声も…っ」
「アァ…んッ」
僕の中でアスランが一層容量を増した気がして、そっと目を開けた。
涙でぼやけた視界に映る景色。辺り一面のピンクにアスランの藍色の髪が一際映えて。額に汗を浮かべたところにへばりつく桜の花びら…
「ふぁ…き…れい…」
「キラ…」
──あの別れの記憶もアスランとの大事な思い出だから忘れない。
けど僕は桜を見る度、きっと頬を染めて思い出すよ。
桜の下で君と繋がったことを…──
「アァッ…い…僕ぅ…っ」
「キラ…いいよ、イって…」
「あっあぁっ、イク…イっちゃう…ッ」
中を突き上げてくるアスランのそれに全身を震わせて悶える。自分とアスランの荒い息遣いと、さっきよりも響く淫らな水音におかしくなりそうだった。
「ひぁッ、あっアァァ──ッ」
快楽の絶頂へと昇りつめて、僕は膨張していた自身から白濁を勢いよく放つ。ビクビクと痙攣していると、アスランの短いうめき声が聞こえて。力が抜けた躰を揺さぶられる。
「く…ッ…キ…ラ…!!」
「は…ぁあ…ン」
ドクッと蠢いて奥に弾ける熱と、辺りを包む桜の匂いを朦朧とした意識の中で感じた。
◇◇◇
「う〜アスランってば信じられない…っ」
「キラ、そんなに怒るなよ。別に俺は気にしてないから」
「アスランが気にしなくても僕は気にするの!ってアスランがあんなとこでするから…っ」
「でも感じてただろ?キラ、いつも以上に可愛いかったよ」
「…馬鹿…!」
あんな体勢でしたんだから服にかかっちゃうのも当然で。しかも背中とか腰とか痛くて…
僕は歩くことが出来ず、アスランにおんぶされていた。
「でもごめんな、無理させて…」
「あーあ、明日もきっと痛いんだろうなぁ」
「…責任は取るよ」
「じゃあ許す」
一日中看病してよ?と言うとアスランははいはいと笑った。
「…桜綺麗だな…」
「うん…」
僕たちの上からハラハラと降ってくる花びら。あの頃から変わらず咲き続ける桜の木々。
僕たちも変わらず一緒いられたらいいね──
「ありがと、アスラン…」
「なんか言ったか?」
「ううん、何でもないよ」
「そうか?…あ、また来年も一緒に見ような、桜」
「…うん…」
歩く度ふわりと揺れるアスランの髪に顔を擦り寄せた。
淡い想いを抱いていたあの頃を蘇らせる、薄桃色の花々。
今年も桜が舞い散る──
End