Eterinty 永遠の誓い 3
「キラ、着いたよ」
「ここ……?」
街の外れにひっそりと建つその教会についた時には、もう日が暮れかかっていた。
アスランが扉を叩くと、暫くして開いたそこから導師と思われる男性が顔をだした。
「マルキオ様、アスランです。この度はご無理を言ってしまって申し訳ありません」
「アスラン、よくおいでになりました」
アスランがマルキオ様≠ニ呼んだその導師は、アスランの後ろからそっと顔を出すキラには気づかず、正面を向いたままだ。
(あれ、この人……)
盲目なのだろうか……閉じられた瞼を見ていると、アスランがキラの背中をそっと押して前に出す。
「マルキオ様、私の横にいるのがキラといいます」
「その方があなたのお選びになった方なのですね」
「はい」
マルキオがキラの方に顔を傾けて微笑むのを見て、キラはぴくんと身体を跳ねさせた。
「あ……初めまして、キラ・ヤマトと申します……!」
「そんなに緊張しなくてもいいよ、キラ」
慌てるキラにアスランが小さく笑う。
「話は聞いています。ですがお二人ともお疲れでしょうから、話は明日にして今日はゆっくり休みなさい」
マルキオは穏やかな表情で二人を中へ迎え入れた。キラたちがお礼を言って中へ入ると、彼は慣れたように杖をついて先を歩き出す。その後をついていきながらアスランが口を開いた。
「マルキオ様、申し訳ないのですが、今から礼拝堂に入らせてもらってもよろしいでしょうか?」
「えぇ、構いませんよ」
「すみません。キラ、おいで」
マルキオの許しを得て、アスランはキラの手を引く。
「え、でも傷の手当てが……」
「後からするから……先にキラに渡したいものがあるんだ」
アスランに手を引かれるまま、キラは廊下を進んだ。
開いた扉から中に足を踏み入れた瞬間、その光景にキラは歓声を上げた。
「わぁ……」
目に飛び込んできた色とりどりのステンドグラス。そして正面では十字架がキラたちを見下ろしている。
「……きれい……」
「そうだな……俺も小さい頃、母に連れてこられる度にそう思ったよ」
「お母さんに……?」
十字架を見上げるアスランの横顔に、キラはふとムウが話していたことを思い出した。事故で亡くなったという、アスランの母である前王妃。それもアスランのせいだったとか……。
ムウが言わないほうがいいと言ったのは、きっとアスランが気にしていると思ったからなのだろう。だが、自分から母の話を漏らすアスランに、キラはどう話を紡げばよいか困惑する。
そんな自分の視線に気づいたのか、ふと目が合う彼にキラは思わず反らす。アスランはそれに構わず、静かに話を続けた。
「ここは母が昔から通っていた教会だったらしい。それで俺も連れてこられていたんだ。その母も俺が子どもの頃、死んでしまったけどな……それも自分のせいで」
キラははっとして顔を上げる。アスランの声は落ち着いていた。それが何を意味しているのかわからず、キラは再び十字架を見つめるアスランをただ見つめる。
「父上たちの狩猟について森に入ったんだ。俺は調子にのって勝手に奥に進んで。それを追いかけてきてくれた母に流れ弾が当たった」
表情を変えず話すそれは、神を前にして懺悔しているようではなかった。過去の出来事として、彼が受け止めている感じがする。
「あの時あんな愚かな行動をとらなければと、ずっと自分を責め続けて。でも、どうあがいても変えられない過去を悔いるより、これからをしっかりと生きていくことが大事だと気づいて……それを母に誓うために、あの日、あの森に行ったんだ」
そう言って自分を見下ろすアスランに、キラはまだ困惑した表情を浮かべていた。アスランの言う、あの日≠ニあの森≠フ意味がわからない。
「キラも見ただろ?母の墓を」
「──あ……」
その瞬間、キラの頭の中で全てが繋がった。ムウから聞いた時に引っかかっていた王妃の名前。あの森で見つけた墓石に刻まれた名前がそれだったのだ。
「あ、あれが……?」
「あの日、久しぶりに行ったあの場所でキラを見つけた時、墓を包み込むようにしていたおまえが天使に見えたんだ……」
あの日、恐怖から逃れようと足を踏み入れた森。自分から行きたかったわけではない。そしてアスランも日を同じくして森に来た。この偶然ともいえる二人の出会いが、まるで何かに導かれていたように思える。
「きっと母が巡り合わせてくれたんだな……」
「アス…ラン……」
──僕はアスランに出会うために生まれてきたって思ってもいい…?
「う………」
あれだけ泣いたのに、涙は枯れることなく溢れてきて。自分はつくづく泣き虫だと思うが止められなかった。
「キラ、左手貸して?」
柔らかに微笑むアスランに、キラは涙を浮かべながらおずおずと手を差し出す。アスランは服の中を探り、取り出したそれをキラの細い指先に近づけた。
「これをお前に──」
「え……」
アスランの指先が捕えていたそれは、パトリックに無理やり外されたあの指輪だった。アスランはキラの手を取りながら、そっと薬指にはめる。
「こ、これ……っ」
もう二度と目にすることができないと思っていたその指輪。目を丸くするキラを見つめ、アスランは少しためらいながら口を開いた。
「アーサーにキラのことを知らされて……探しに入った父上の部屋で見つけたんだ」
「ッ──!」
アスランの言葉にキラの顔が一気に強張る。
彼は知ってしまったのだろうか……。ためらいを見せた表情にキラは気づいた。
「アスラン、僕……っ」
「言わなくていい」
悲痛に歪む顔にアスランが首を振る。
「ごめん、キラ……本当に辛い思いばかりさせて……」
アスランもその顔に痛みを走らせながら、震えるキラの手を強く握った。
「だけど、これからはキラの傍で、ずっとおまえを守ってみせるから……」
エメラルドが光るキラの手に唇を寄せる。
「この指輪に誓うよ、キラのために生きることを──」
アスランが指輪に口づけし、言葉を紡いだ。キラの頬に新しい涙が伝う。
「キラ……」
「違…これは…うれしいから……」
涙が温かく感じた。
キラは袖で涙を拭うと、同じようにアスランの手を取った。その指にはアメジストの指輪が輝きを見せている。
「僕も誓います、ずっとアスランのために生きていくことを」
キラも誓いを言葉にし、そっと指輪に口づけた。
顔を上げるとアスランが優しく微笑み、キラを見下ろしている。
「なんか……結婚式みたいだね……」
静かな礼拝堂の中、神を前にして誓い合うそれはまるで儀式のようで。急に恥ずかしくなり、キラは頬を赤く染めた。アスランは小さく笑いながら、その頬を撫でる。
「俺はそのつもりなんだけどな」
「え……!」
驚くキラにアスランがまた笑った。そして、「嫌?」と問いかけるアスランに、キラは勢いよく首を振る。
「嫌なわけない!」
いつか願ったアスランの伴侶になれるのだ。
キラがその瞳で強く答えると、アスランは嬉しそうに微笑んでキラを引き寄せる。
「キラ、愛してる」
「僕も…アスランを愛してる──」
二人はもう一度見つめ合い、誓いのキスをした。
何度も唇を重ねて、互いを確かめ合う。深く唇を貪れば、キラの胸はアスランへの想いで熱くなった。
「ん……っ」
栗色の髪を掻き分けて唇が額に降ってくる。
「っん……アスラ……」
とくんと胸を高鳴らせていると、アスランの腕が身体を抱いた。ふわりと浮いたかと思えば、その身体は床に敷かれた絨毯の上に寝かされる。そして覆い被さってくるアスランにキラの目は丸くなった。
「え、こ……ここで……?」
「大丈夫、誰もいないよ……」
「で、でも神様が見てる……っ」
ちらりと見上げた視界に十字架が入り、キラは見られているような錯覚に陥る。
アスランは恥ずかしさに目を泳がせるキラの頬に手を添えた。
「神に認めてもらいたいんだ。これは俺とキラがひとつになる契りだから」
(アスランと僕が……ひとつに……)
何度と身体を繋げてきたけれど、今から成すこれは特別な意味を持つ気がして鼓動が強く鳴る。
「キラ……」
「ん……っ」
アスランの指が身体に触れると、キラはびくっと跳ねた。羞恥と、彼以外に触れられたことを思い出して身体が強張ってしまう。
アスランは強く目を瞑るキラを緩めるようにキスをした。唇を割って差し入れた舌先で口内をゆっくりと弄る。歯列を舐め、舌を吸い上げると唾液が溢れてきた。
「んっ、ふ……」
ごくりと飲み込めば、それが媚薬のように思考を麻痺させる。キラはアスランの髪に指を絡ませながらキスを貪った。
唇を解き放たれると、二人の間に糸が伝う。キラに印をつけるように押しあてられるアスランの唇は、首、鎖骨へと滑り落ちて。肌に触れられる指や唇から彼の優しさが伝わってくる。
「んっ、く……」
開かれた胸に顔を寄せて、小さな突起に触れるとキラは唇を僅かに綻ばせて吐息を上げた。礼拝堂の高い天井に響く自分の声が気になってしまい、思わず唇を噤む。
アスランはキラを感じさせようと、舌と指を使って丁寧に愛撫を施す。やがてキラの唇は震えだし、閉じることが叶わなくなった。
「あ…ふ…っ、う……」
こんな風に濡れた声を響かせるのが恥ずかしくてたまらない。だが、同時に沸き上げる感情は喜悦だった。アスランが触れられたところから彼に染められ、そして清められていくような気がする。
(もっと……もっと触れてほしい……)
そうしたら、彼のことしか考えられなくなって。心も身体も彼のものになれる気がした。
キラは吐息を漏らす唇で、アスラン、と小さく呼ぶ。
「お願い…もっと触って……僕をアスランのものにして……?」
胸に顔を埋めるアスランに手を伸ばして囁くと、アスランは微笑んで頷いた。その手を取ってキスをすると、ちろりと舌を這わせながら細い指先を口内へと含んでいく。
「あ…ンん…っ」
温かな口内に包まれてキラは上擦った声を上げた。一本一本を丁寧に含んでは吸われ、キラはそんな行為にも感じて声を震わせる。
「キラ……俺もおまえの全てに触れて、自分だけのものにしたいよ……」
上着を脱がし、上げられた腕の付け根にアスランは唇を寄せた。
「っや!そんなとこ……っ」
「だめだ、全てに触れたいと言っただろ?」
「で、でも…やぁ!」
恥じらい、力を入れて脇をしめようするキラの腕を、アスランは上げたまま固定する。わざとなのか、ぴちゃぴちゃと音をたてながら舐められ、キラは羞恥に顔を歪めた。
「あ、あぁ…っ」
擽ったい場所なのに、熱い舌で舐められると背筋がぞくりと震え、勝手に声が上がってしまう。
「……ここも感じるんだな」
「っ……!」
囁くアスランに図星だと知られたくなかった。紅潮した顔を見られないように背けると、アスランは口元を緩ませる。
「恥ずかしがらなくていい、キラの全てで俺を感じてほしいんだ」
「ん……っ」
再び肌に寄せられる唇に、全身が性感帯になってしまっているのではないかと思うくらい、身体は熱を上げていった。
「──あ……っ!」
下肢に伸ばされたアスランの指が捉えたキラの中心は、既に固く張り詰めていて。撫でられれば濡れているのが自分でもわかる。
アスランは蜜を指に絡め、双玉の下で小さく窄まった窪みに這わす。ゆっくり撫で回すと収縮を繰り返すその中に長い指を挿入した。
「あ、あぁっ……く、ふうぅ」
一度根元まで埋め、それを抜いてはまた入れると、指に合わせてくちくちと粘着質な音が漏れる。徐々に増やされていく指に、半開きの唇から涎が伝った。
傷つけないようにゆっくりと解しながら快楽を与えてくるアスランの指に、キラはしっとりと汗を浮かべながら悶える。
「あ、あぁッ」
指が敏感なしこりに触れると甲高い声が上がった。
「ひっ、あ、あぁ……そこ……ぉっ!」
「キラ、かわいいよ……」
中で指を折り曲げ、的確にそこを擦りだすアスランに、キラは頭を振る。中心に集まった熱が蜜となって、先端からとろとろと溢れた。
(このままじゃ……僕……っ)
このままひとりで達したくない。アスランの熱い塊で貫いて、ひとつにしてほしいと思った。
「や、だめ……待って……ッ」
キラは必死に脚に力を入れながらアスランの肩を掴む。
「はぁ、アスラン…きて……ひとつにして……?」
「キラ……」
自分を呼ぶアスランの声に艶がある気がした。
指を引き抜くと、喪失感にひくひくと震える内壁がそれ以上のものを望んでいるようにもみえる。
そこに宛てられる熱い切っ先を受け止めようと、キラは力を抜いた。
「あっ、あ、あぁぁッ」
グッと押し付けられ、入り口を開かれる。まだ僅かにしか入ってないのに、それだけでアスランを感じてキラは歓喜の声を上げた。
(もっと……奥まで……)
奥深くまでを彼で満たして欲しいと身体が疼く。
キラはゆっくり息を吐いた。すると、張り出した部分が中を押し開いて入ってくる。その反動にキラは喉を反らせた。
「キラッ」
「ッ、は……あぁッ」
最奥まで貫かれたそれはキラの内側を一杯に満たす。
キラは自分の中で熱を孕むアスランに感じ、喜びに全身を震わせた。
「うれし…アスランと……ひとつに…なってる……」
うわごとのように呟くと、ふわりとアスランの唇が降ってくる。
「あぁ、これで俺たちはひとつになったんだ……」
ぎゅっと握りしめていた手をアスランが覆った。そっと緩めると指が絡んでくる。キラもそれを強く握った。
こうしていると、お互いの熱で溶けてしまうのではないかと思う。ゆっくりと内を動き出す塊に二人の息は荒くなるばかりで。キラはどうしようもない幸福に包まれ、アスランの腰に脚を絡みつけながら背を反らせた。
「ひっ、あ…あ、あぁっ」
「くっ……キラ……!」
激しく打ち込まれる腰に嬌声を上げれば、キラの内側で膨張したそれが大きく震え、熱い飛沫を迸らせる。その瞬間、たまらない悦楽を感じ、気づけばキラもぱたぱたと白濁を放っていた。
(──あ……)
仰け反らしたまま快感に酔いしれるキラの視界に、ぼんやりと十字架が映る。
(神様──)
もし本当に神様が見ているのなら
どうかこのまま彼と共にさせてください
全てを捨てて自分を選んでくれたこの人に
ずっと愛を捧げていきたいから──
強く強く願いながら、キラは静かに瞳を閉じた。
「──それではお気をつけて」
「はい、本当にありがとうございました」
「お二人に神のご加護があるよう、祈っていますよ」
マルキオにお礼と別れを告げ、二人は再び進みだした。
この先、国境を越えた山の向こうに自由を求め、ひっそりと暮らす人たちがいる、小さな村があるという。
「アスラン、畑耕せるかなぁ」
馬に揺られながら、背にしたアスランにキラは小さく笑う。手綱を握り、前方を見ていたアスランも、キラの言葉に笑んだ。
「キラとなら何でも出来るよ」
「うん、僕も」
大丈夫、きっと二人なら生きていける──
「ね、アスラン?」
キラはふと後ろを振り返ってアスランを見上げる。
「僕にとって、アスランはずっと皇子さまだよ?」
だめかな……?そう首を傾げれば、そんなキラを見つめてアスランは微笑んだ。
「あぁ、おまえだけのな」
「うん!」
それは遠い昔のこと。恋に落ちた若い皇子と、ひとりの少年の物語。
ともに生きることを誓った二人は、いつまでも幸せに暮らしたという。
永遠の愛とともに───
End