Eterinty
第4章 戒め
「ふぅ……」
天井を眺めてキラはひとり溜め息をつく。
一昨日からアスランは隣国に出かけていた。王族が集まる式典と聞かされ、また迷惑になってはとキラは残ることにした。
送り出したのはついこの間なのに、もう一ヶ月近くも会っていない気がする。今日帰ってくるはずのアスランがとても待ち通しくて、キラは朝から落ち着かないでいた。
──ガチャ
「……あ!」
扉が開く音がして飛び跳ねるように身体が動く。ノックなしで入ってくるのは彼だけだった。それを知っているキラは相手の顔も見ずに飛び込んだ。
「おかえりなさい…って……あれ?」
思わず抱きついてしまったところで、体格が違うことに気づいて恐る恐る顔を上げる。
「熱い歓迎、嬉しいね」
「……ムウ…さんっ!」
満面の笑みでキラを見下ろしていたのは、ムウ・ラ・フラガだった。
先日、彼にされた悪戯を思い出して、キラは慌てて身構えるとキッと睨む。
「なっ…なんで勝手に入ってくるんですか?」
「あれ?俺を歓迎してくれたんじゃないのか?」
「違いますよっ」
「だよな……まぁ知ってたけどさ」
「え?」
「アスラン、今出かけてるんだろ?寂しいんじゃないかと思って遊びにきたんだ」
あのバルコニーの時のようにからかいの表情で笑うムウに、キラの内でまた焦りが広がった。
「べ、別に……!今日帰ってくるって言ってましたから…って、ちょ、ちょっと…っ」
そんなことを言っている間にムウの手がキラを捕まえる。
「何するんですかっ」
「何って…アスランが帰ってくる前に、この間の続きをするに決まってるでしょ」
「えぇっ」
軽々と担がれてしまった肩の上で暴れてみるものの、そんなの無駄だった。気づけばベッドの上に落とされて。
「いっ…嫌っ、んっ、ンん…っ」
キラは自分の上に覆い被さったムウに唇を塞がれていた。無理やり舌を捻じ込まれて口内を掻き回される。
「んぅ…っ、んンっ」
器用ともいえる慣れた手つきで服を脱がされ始め、キラはムウの身体を押し退けるように叩いた。
「……っふ…やだ…ぁっ」
やっと口を解放されたと思った次に、はだけた胸板にムウの唇が押し付けられる。
「あ…っ」
胸の小さな突起を舐められて、キラの身体がぴくんと跳ねた。
「……敏感なんだな、キラは」
「や…っ、あンっ」
唇で啄ばまれ、吸われれば勝手に声が上がってしまう。
「かわいい反応」
ムウは上機嫌になってキラの身体を撫で回しながら、固くなった突起を執拗に舐める。
「はぁ…あっ…い…やぁ……」
(こんなの…アスラン以外、嫌なのに……)
キラの身体は意思とは関係なく、久々の愛撫に溺れ始めていた。
「あっ…だ、だめっ」
腰を浮かされ、下肢を覆っていたズボンを下着ごと下ろされると、愛撫に反応して頭を持ち上げていたキラの自身が曝される。
「あぁ、先がもうぬるぬるになってる……」
「やだっ…あっ、あぁ…ッ」
キラの痴態に笑みを浮かべながら、ムウはそれに指を絡めると上下に扱きだした。強制的に与えられる快感になす術もなく、キラは今にも弾けてしまいそうな熱を訴える。
「ふぁ…っ…ムウさ…だめ…ぇッ」
「何?もうイクのか?」
「あぁっ、出ちゃ…っ、あ、やっ」
達する寸前のところでムウはキラの根本を強く締めつけた。
「はぁ…っ…ムウ…さん……?」
「イクのはこっちの後な」
「え…?ひゃっ」
締めつけられたまま、もう片方の指が脚の間に滑り込んで。
「ひっ!」
後孔を撫で上げたその指がキラの中に入ってきた。
「へえ、凄いな、ここもこんなに濡れるんだ」
「い…っ…やめ…あぁ…ッ」
ぐるりと中を探られるように掻き回され、反射的に指を締めつけてしまう。そうすることで余計に感じてしまい、キラは自分の反応に泣きながら喘いだ。
「はぁ…っ…あぁ…ンん」
「キラ、厭らしい」
快楽に理性が霞んでいく。ぐちゅりと音を漏らしながら、キラはムウの指を飲み込んで腰を振る。
「イキたいか?」
「ひぁ…っ…や…もぉっ」
耐えられないとキラが首を振ったその時だった。
(──あ……)
扉が開く音が響く。
「キラ?」
そしてそこに現れたのは、キラが待ちこがれていたはずのアスランだった。
「おおっと、お早いお帰りで」
「ムウ、おまえ何して…っ、キラッ?」
ムウの陰に隠れていたあられもないキラの姿を見つけて、アスランの顔がみるみる変わっていく。
「ムウっ!おまえ……ッ」
アスランは駆け寄るや否や、ムウの胸ぐらを掴んだ。
「悪かったよ。つい魔がさしたっていうかさ……」
「言い訳などいい!キラに手を出すなと言ったはずだ!」
へらへらと笑いながら両手をあげるムウに、アスランは怒りを露にして怒鳴る。
「でも黙ってやってるんだぜ?パトリック様にこのことが知られたら……この子どうなるんだろうな?」
「ッ!おまえ……っ」
アスランはムウを睨みつけると、掴んでいた彼の服を離した。
「ふぅ……」
ムウは息をつくと、立ち上がって服を整える。
「あ、アスラン」
「……なんだ?」
「キラは上玉だな。俺の指咥えて腰、振ってたぞ」
まだ怒りの治まらないアスランを煽るような言葉を残して部屋を出ていった。
「──キラ……」
「っ……」
自分を呼ぶ声と見下ろす視線の冷たさに、キラの身体がびくっと竦む。
あんなに会いたくてたまらなかったのに、今は顔を向き合わせていることに苦しささえ覚える。
「…ごめ…ん…なさ…い……」
(そんな目で見ないで……)
キラは涙を溢しながら、必死で言葉を紡いだ。
「……キラ……」
冷たく響くその声でアスランはキラに問う。
「本当にムウの指を咥えて感じてたのか?」
「ッ……」
「見せろ……」
「え?あっ」
アスランはキラの身体を押し倒すと、無理やり脚を開かせて、その中心に目をやった。キラの自身はとっくに萎えてしまっていたが、ムウの指に解された蕾は未だ湿り気を帯ている。
「こんなに濡らして……ムウが言っていたことは本当なんだな」
「あぁ…っ」
アスランはいきなり指を差し込むと、怒りに任せ、乱暴に掻き回しだした。
「ふ…ぁっ…ンん…や…」
治まっていた快楽にまた火がつけられる。早急に掻き乱すそれにすら感じてしまい、キラの身体はびくびくと震えた。
「キラ、そうやってムウの指を咥えて悦んでいたのか?」
「あぁっ…ごめ…なさ…ッ」
怒っている…なのにどうしようもなく感じてしまう自分の身体。
「ふ…ぇ…や、あぁ…っ」
泣きながら息を上げていると、その様子を見下ろしていたアスランが指を引き抜く。
「隣国でおもしろいものを手に入れたんだが……今日使うことになるとは思わなかったな」
そう冷ややかな笑みを浮かべると、袋の中から取り出したものをキラに見せつけてきた。
「っ!あ…あぁ……」
アスランが手にしたそれは男性器を真似て作られた玩具だった。漆が塗られているのか黒光りしていて。かなりの太めの筒状にいくつもの突起が付いている。
「っ…そ…れ……」
「あぁ、俺以外に感じるなんて、仕置きが必要だろ?今日はキラの中にこれを挿れてやるよ」
「いっ、嫌っ…そんなの…っ」
(そんなの挿れられたら壊れちゃう…っ)
恐怖に後ずさりをするキラをアスランがベッドに縫い付けた。
「やっ…ごめんなさい、やめ…っ」
暴れるキラの手首を掴むと、アスランは服についていた装飾の紐で縛り上げる。
「いや…ぁっ…ほどいてっ」
「キラは俺に逆らうのか?」
「ちっ、違うっ!でも…こんなの…怖い…っ…」
(アスランがいつものアスランじゃない……)
青ざめて震える唇を塞がれた。抉じ開けられるように舌が滑り込んでくる。息もつけないほどの激しいキスをされた。
「っん、ふ…ぅ…ン」
酸素が欠乏して頭が朦朧としてくる。
「ン…ぁ…はぁ…っ…や…?」
やっと離れた唇に大きく息を吸い込んでいると、膝裏を持たれて脚を大きく開かれた。
「や、やだ……」
視界の端に先ほど見せられた玩具が映って、キラは嫌々と首を振る。
「キラ、この間言ったよな?俺なら何されてもいいって」
「あ…で、でも…んッ、あぁっ」
回答に詰まるキラの窪みに堅くて冷たい感触がした。
「ひっ、やめて…そんな大きいの…入らない…っ」
「入るだろ?キラのここなら……」
「やだ…っ…ひぃ…ッ!」
狭い入り口を開いて、無理やり先を押し込まれた。
「いっ、痛…い……」
「キラが力を入れてるから……ほら、力抜いて」
「ふぇ…っ…そんなの…無理…あぁっ!」
ぐちゅ、と先端を出し入れされながら、少しずつ中に挿れられる。そして、
「──ひあぁ…ッ!」
力づくで奥まで押し込まれた。そのあまりの圧迫感に息が止まりそうになる。
「全部入ったな……」
「あぁ…抜いて…ッ、ひぁっ」
埋められた玩具を浅く引き抜かれたかと思うと、一気に奥まで挿し込まれた。その衝撃にキラは悲鳴をあげる。
「ひぁ…っ…あ…はぁ…ッ」
キラの中を出入りするグロテスクな塊。それが壁を擦る度、痛みよりも快感の方が勝ってきてしまい、キラはいつしか吐息を漏らし始めていた。
「厭らしいキラ…こんなものにも感じるのか?」
「ふ…ぁっ、違…いゃ…あぁ…ッ」
ぐるりと中で回されると、張り出した突起が粘膜を抉る。
「ンぁッ…あぁ…いぃ…っ」
(やだ……気持ちいい……)
目一杯広げられ、過敏になっている壁への刺激に、触れられていないキラの自身から蜜がとろとろと溢れ出して。
「…これがいいのか?」
「あ、あぁッ…だめぇっ…出ちゃうっ!ふぁ…あぁっ!」
壁を掻きむしられ、キラは玩具によって達してしてしまった。張り詰めた自身から勢いよく放たれる白濁をアスランが見つめる。
「キラ、こんなに溜っていたのか……」
「は…ぁ…っ…アス……」
「でもまだ足りないんだろ?」
「ひ…っ」
達して痙攣している身体に、アスランは容赦なく出し入れを再開した。
「ンぁ…っ…いや…動かさ…ない…でぇ…」
「嫌じゃないだろ?また大きくして……」
「あぁ…っ」
強く握られる自分の分身は意思と関係なく、また勃ち上がり始めている。その先端の割れ目に爪先を食い込まさられて、キラは甲高い悲鳴をあげた。
「キラ…まだ出るだろ?」
「いっ…いやぁ…ッ」
そこから溢れてくる蜜を絡めながら先端を撫で回され、それと同時に動かされる玩具にキラはびくびくと背を反らせる。
「ひゃ…ぁっ…も…許し…て…」
「キラ、まだこれからだ」
アスランは笑みを浮かべて、玩具をいっそう激しく動かした。
「ひぁ…ッ、あぁっ、アスラ…っ」
宙に浮いたキラの脚がぴんと突っ張る。
「はぁあ…ッ、だめぇ、また…っ!ンあ…ぁぁっ」
キラはアスランの手を汚しながら、先ほどよりは量の少ない白濁を溢した。
「っ…は…ぁ…は…」
「キラ……」
息も途切れ途切れなキラの耳にアスランが唇を寄せる。
「今日はこれで何回イケるか試してみようか、キラ…?」
「ひっ…!」
耳元で囁くアスランの言葉にぞくっと背筋が凍った。
「…い…や…っ…」
かろうじて首を左右に振る。
「…も…僕……壊れ…ちゃう……」
こんな風に酷くされているのに、きっとまた感じてしまうのだろう。そんな自分が怖くて、熱を孕んだ身体が心と離れてしまいそうだった。
「──壊したいよ」
アスランが静かに呟く。
「キラを壊すほど抱いて……俺のものだけにしたい…」
涙で濡れたキラの頬を撫でながら囁いた。
(え……)
自分を見下ろす翡翠の瞳は先ほどまでの怒りではなく、痛みに似た色を浮かべている。
「アスラ……」
キラが唇を開いた時、ぐちゅりと音をたてながら玩具が一気に引き抜かれた。
「ひぁ…っ、あ、アス…ッ」
空虚となったそこを埋めるかのようにアスランの先端が宛てられて。
「…キラ…っ」
「あ…っ、ああぁ…ッ!」
膝裏を押さえ付けられたまま、一気に奥まで貫かれた。
「っ…あぁ…くぅ…う…ッ」
反動で反り返った身体を整える間もなく、アスランが腰を揺らす。
「あぁ…っ…ふ…ぅあ…ン」
あんなに吐き出してしまった後なのに、アスランに突き上げられる度、キラは感じて甘い声を上げた。内を満たす楔はとても熱くて、無機質な玩具よりキラを燃え上がらせる。
「ひゃ…ンッ」
アスランの先端が壁のしこりに触れて、キラは大きく跳ねた。
「締め方が変わったな…」
「ひぃ…ッ…ぁ…あぁっ…だ…めぇ」
強すぎる快楽に中のアスランをぎゅうっと締めつけて。
「はぁ…っ、あ、あぁ…ぁッ!」
その瞬間、弾けはしなかったものの、キラは絶頂を迎えて悶絶した。身体の力が抜け、目の前が真っ白になっていく。
(僕…もう……)
パンッ
「…ン…っ…ぁ…」
乾いた音が響く。叩かれた頬がじわっと熱くなった。
「キラ、勝手に気絶するな。俺はまだ満足していない」
「あ…ぁ…っ…」
ぼんやりと開いた瞳にアスランが映る。
力の入らない躰を反転させられ、キラは四つん這いにされた。
「んンっ…はぁ…ッ」
腰を高く持ち上げられながら、アスランはキラの奥めがけて突いてくる。
「んぁ…っ…ゃ…ふぁ」
膝でしか自分を支えられず、キラの顔はシーツに埋まってしまうが、そこからくぐもった矯声を漏らしていた。
「キラ…っ…まだ感じるのか…?」
「っ…ふぇ…アス…ラ…」
背後で囁くアスランの声が艶っぽく聴こえ、こんな状況でもどくんと心が震えてしまう。
「キラ…キラッ」
「ひ…ぁっ」
腰を掴まれ、激しく打ち付けてくるアスランの塊が中で要領を増して。そして止まった瞬間、熱がキラの奥で弾けた。
「あぁ…っ…あつ…い…」
キラはうわごとのように呟く。
全部を支配されたような気がして、キラは意識を手放した。
◇◇◇
「……ん……」
そっと目を開けると、今はもう見慣れた天井が映る。
キラは寝間着を着せられ、ベッドにそっと寝かされていた。
「キラ、気がついたのか?」
「あ……」
ベッドに脇に座っていたアスランが、立ち上がってキラの顔を覗き込む。
「…ぼ…く…、痛…っ」
起き上がろうとしたキラは全身に痛みを感じ、あえなくベッドに沈んだ。
「キラ、動くな。熱もあるから…」
「え……?」
そう言われて額に冷たいものがあることに気づく。アスランは濡らした布を宛て直すと、キラの頬に手を伸ばした。
「すまない。俺が無理をさせたから……」
申し訳なさそうに顔を曇らせながらキラの頬を撫でる彼。
いつもの優しいアスランだ。
「う…アス…ラン…っ」
安堵に涙を浮かべるキラに、アスランはまた謝り、その涙を指で拭う。
「ふぇ…っ…アス…お願い…ぎゅってして…?」
「キラ……」
キラがしゃくりあげながら呟くと、アスランは労わるように、そっとふとんの上からキラを抱きしめた。
「今日はキラの傍にずっといるから…だから少し眠れ…」
耳元で囁くアスランの声が優しい。
「うん…ずっと…いて…ね……」
キラはとても安心して。アスランの手を握りしめながら、眠りについた。
「……キラ……」
静かに寝息をたてるキラに、アスランはもう一度その名を呼ぶ。
怒りと嫉妬に我を見失ってしまうほど、おまえに溺れてしまっている俺は、おまえがいなくなってしまったらどうなってしまうのだろうな……。
ずっと傍にいてほしいと願うのは俺のほうなんだ。
だから──…
第4章 End