Eterinty
第3章 大切なもの
「キラ、今夜舞踏会があるんだが……一緒にくるか?」
「え……?」
アスランの問いかけにキラは驚いて彼を見上げる。
「僕なんかが行ってもいいの……?」
「あぁ。でもそのまんま、って訳にはいかないけどな」
「そのまんま?」
「キラには俺の相手として連れて行きたいから、それなりの格好をしてもらうことになるけど……」
「相手……?」
(皇子の相手っていったら……)
「お姫さま…?」
「あぁ」
「えっ!僕が?」
「そうだよ」
アスランはにっこりと微笑みながら、目を丸くするキラの髪を撫でた。
◇◇◇
「キラ、おいで」
「う、うん……」
差し伸ばされた手をとって、そっと足を踏み出す。
「ドレス似合うよ」
「っ……」
耳元でそう囁かれ、キラの心臓がドキッと跳ねた。
身に纏ったドレスはキラの容姿をよりいっそうかわいらしく引き立たせて。歩けば長めのウィッグがふわりと揺れる。
キラはドレスの裾を踏まないように、緊張しながら先を進んだ。
「あら、かわいらしいお嬢さんね」
華やかな音楽。それに合わせて舞う人々──初めて目にする光景にキラが目を奪われていると、貴婦人たちが興味津々に声をかけてくる。その度にアスランが上手くかわしてくれたが、自分が男だとばれていないことにほっとする半面、自分には場違いな雰囲気に気が重くなった。
「キラ、ごめんな、さっきから……」
「あ、ううん、平気だよ」
気を使うように声をかけるアスランにキラは笑って見せる。その時、アスランを伺うように男がやってきた。
「キラ、悪い。少しここで待っていてくれるか?」
「うん、いってらっしゃい」
アスランはその男に呼ばれ、別の場所へと身を移す。きっと挨拶か何かがあるんだろう。キラはそんなことを思いながら後ろ姿を見送った。
(アスランは皇子なんだから……)
立場上、自分一人に構っていられる場合ではないことはわかる。
(やっぱり僕みたいなのがこんな所にいて、本当にいいのかな……)
キラは顔を曇らせながら、煌びやかなその場所から離れるようにバルコニーに出た。外だけあって音楽も少し遠くに聞こえる。キラは肩の力をおろすと息をついた。
「──君……アスランと一緒にいた子だろ?」
「え……?」
突然かけられる声に振り返ると、そこには長身な男が立っている。癖がかかった金髪に、落ち着いた声からしてアスランよりも年上のようだ。
男は近づきながらキラの顔をまじまじと見つめると、
「やっぱり。アスランは?」
そう自分で納得しながら、また質問をする。
「……アスランは……呼ばれて違う所に行きましたけど……」
キラは見知らぬその男に警戒をしながら答えた。
「ふ〜ん……アスラン……ね。皇子を名前で呼ぶなんて、相当親密な仲ってわけだ」
「っ……!」
からかいの笑みを浮かべながら見下ろす彼に、身体が跳ねる。そうして見られていると全て見透かされてしまいそうで、キラは思わず後さずりをした。
「あれ、怖がらせちゃったか?悪い悪い。俺はムウ・ラ・フラガ。アスランの従兄弟にあたるやつだ」
「アスランの……従兄弟?」
「そ。だからよろしく、子猫ちゃん」
「こ、子猫ちゃん?」
キラは聞き慣れない言葉に眉を寄せると、そんなキラを見てムウが笑う。
(……なんかこの人、苦手かも……)
キラは感覚でそう思った。たじろぐキラにお構いなく、ムウはぺらぺらと話しかけてくる。
「こんなところで何してるの?あ、もしかして人混み苦手とか?」
「だ、大丈夫ですから……ほっといてください」
「そんなに警戒しなくてもいいじゃないの。俺は君と仲良くなりたいんだけど」
「え?」
そうにんまり見つめられると、嫌な予感が湧き上がってきて。
「すみませんっ、失礼します!」
「ちょっと待ってって」
「わ……!」
その場から慌てて立ち去ろうとしたキラは彼に腕を掴まれてしまった。そのまま引っ張られれば、圧倒的に小さいキラの背中はムウの腕の中にすっぽりと収まってしまう。
「やっ……離してください……!」
「だから仲良くなりたいって言っただろ?あのアスランが傍に置くだけあってかわいいよ、君……」
「ひゃっ?」
背後から囁かれながら耳を舐められ、キラは驚きに声をあげた。
「なっ、何するんですか!」
「何って、仲良くなることだろ?」
「んっ、や…っ」
耳にムウの舌が滑り込んできては音をたてて舐め回す。
「や、やめて…くださ…い…っ」
キラはムウの言った『仲良く』の意味がわかって、どうにか逃れようとするが、身体に回された腕は解けそうにもない。そうしている間に背中の止め具に手がかけられた。
「やっ、だ、だめっ!」
そんなことをされたら男だとばれてしまう。
「そうやって恥じらう所もかわいいね……」
「ち、違…っ、あ……!」
勘違いされていることにむっとして、キラが後ろを振り向こうとすると、開いた背中の隙間にムウの手がするりと滑り込んでくる。
「ずいぶん細いんだな」
肌を撫でながら胸部に回されるその手。だが触れた瞬間、女性にあるはずのものがない感触にぴたりと止まった。
「……あれ?」
狐に摘まれたような声を上げながら、ムウは確かめるようにその平な胸を撫でる。
(ばれた…っ……)
アスランが連れていたのが実は男だったなんて皆に知られてしまったら……。キラは身体を強張らせた。
「──そうか……男の子だったんだ……」
「え……」
何故か背後で嬉しそうな声がする。
「アスランもやるもんだな。こんな可愛いい男の子捕まえて……調教でもされてるの?」
「えっ……?」
(調教って……そんな……)
過激な言葉に焦りを浮かべていると、胸で静止していた手が再び動き始めた。小さな突起をきゅっと指で摘み、捏ね回され、キラの身体は反射的にびくんと震える。
「っ…いや…ぁ」
抵抗しようと頭を振るが、その視界にドレスの裾を持ち上げられるのが見えて。
「だ、だめ…っ」
太股を撫で上げる手が中心に近づく度、勝手に熱が集まってしまう。
「あぁっ」
「……やっぱりな」
ムウが触れたキラの自身は下着の下で頭を持ち上げていた。
「少し触れられただけでこんなになるなんて、相当仕込まれてるんだろ?」
「そ、そんなこと…っ」
「違うのか?」
「あんっ…い、やぁ…っ」
やわやわと揉むように握られて、キラは思わず声を上げる。
キラの声にムウが笑みを浮かべながら、下着に手をかけようとした時、
「キラッ!キラ、どこだ?」
バルコニーの入り口でキラを呼ぶ声がした。耳がすっかり覚えたアスランの声だ。
「あ…アス…ラン……っ」
「あ〜あ、もう来ちゃったか…」
ムウは溜め息をつきながら手を止める。
バルコニーの奥に探していたキラの姿を見つけて──そしてキラを羽交い絞めするようにいたムウの姿に、アスランが慌てて駆け寄ってきた。
「ムウ!おまえ、何やってるんだ!」
「子猫が寂しそうにしていたから、可愛がっていただけだ」
眉間に険しい皺を寄せるアスランにムウはキラを離し、さらっと答える。
「っ!おまえ……!」
「そんなに怒るなって。それより、相当仕込んでるんだろ?この可愛い『男の子』」
「ッ!」
ムウがキラの性別をわざと強調して話すと、アスランの目が大きく開いた。
「ここは黙っててやるから見逃せよ」
余裕ありげな顔で、すれ違いざまにアスランの耳にそう囁く。
「……キラに二度と手を出すな」
「はいはい。じゃあな、キラ」
手をひらひらと振りながらムウは去っていった。アスランが悔しそうにギリッと歯を噛み締める音がキラの耳に入る。
「……ごめ…な…さい……」
それまで固まっていたキラは搾り出すように声をだした。
「キラ……」
「ごめんなさい、僕があの人に…男だって…ばれちゃったから……っ」
ぽろぽろと大粒の涙が溢れてくる。自分のせいでアスランに迷惑をかけてしまったのが申し訳なかった。
「キラ、俺が悪い。おまえを一人にしたから…」
アスランはその涙を指で拭いながら、そっとキラを抱きしめる。
「ごめん…怖かったな」
「っ…ふぇ…っ…アス……」
ひくひくと喉を詰まらせながら、キラもアスランにしがみついた。
◇◇◇
「キラ、落ち着いたか?」
「ん……」
アスランの膝の上でキラが頷く。戻ってきた部屋のソファーに腰掛け、アスランは抱きかかえていたキラの顔を覗き込んで安堵の息をついた。
「ね、アスラン……」
キラも彼を見上げると、先ほどのことを思い浮かべながらそっと口を開く。
「あの人が言ってた、僕が調教されてるって……でも、僕はアスランが好きだから…っ」
「わかっている、俺もそんなつもりでおまえを抱いているわけじゃない」
真剣な顔をしたアスランがキラの頬に触れた。
「ムウみたいに思うやつがまたいるかもしれないが……キラは俺のものじゃ嫌か?」
「っ、嫌なわけないっ!」
キラは頭を勢いよく左右に振る。
「僕はアスランの傍にいたい…っ」
アスランが好き。例え身分が遥かに違っていても、この気持ちは本物だ。
「キラ……」
キラの返事にアスランはありがとうと囁いて、そっとキスをした。
「ん……」
長く重なる唇にキラが甘く声を漏らすと、僅かに離れてはまた重ねられる。お互いを求め合うように舌を絡めれば、くちゅ、と水音が響いて。それだけでキラの身体はアスランを感じて熱を上げていく。
「……今日はこのまま抱いてもいいか?」
「え……でもドレス、汚れちゃうよ?」
「汚れても構わない、今すぐキラを抱きたい…」
ソファーに身体を降ろされて、ドレスの裾からアスランの手が滑り込んできた。下着を脱がされると大きく脚を開かされる。
「や…ぁっ」
アスランに見られているかと思うだけで、晒されている自身は触れられてもいないのに固く勃ちあがってしまう。
「キラ……」
「あっ…ン」
それに伸ばされる指に反応して、先端からとろりと蜜が溢れた。
「さっき……ムウに触られたのか?」
「っ…ごめん…なさい……」
「……調教されたと思われてもいい。キラが感じるようにしたのは俺だ」
「でもっ……僕はアスランになら何されても平気だもん」
アスランにされることならどんなことでも受け入れてみせる。
「──なら、もっと俺を感じて……?」
アスランの声が静かに響く。開いていた脚を更に持ち上げられて、ソファーの背もたれに乗せられた。
「あ…アスラン…っ」
羞恥に頬を染めながらアスランを呼ぶと、彼はドレスの中に消えていく。
「ひ…っ…ぁあ」
次の瞬間、昂ぶった中心に生温かく、湿った感触を受けてキラは大きな声を上げた。
「あ、や…あぁっ…ん」
アスランがそこを舐めていることをすぐ理解して驚愕に目を見開くものの、味わったことのない快感にキラの身体はひくんと跳ねる。
「ひ、やぁ…っ、ふ…」
敏感な自身をねっとりと舌で愛撫され、キラのそこはアスランの唾液とキラの先走りの蜜ですっかり濡れそぼった。
「キラ、気持ちいい?」
「ふ…う、ンン…」
吐息を上げながらこくこくと頷くと、アスランの手が太股を押し上げる。
「アスラ…っ、ひゃっ」
双丘の割れ目を開かれ、びくっと震えていると、そこにアスランの顔が埋まった。
「やっ、だ、だめ…汚い…っ」
信じられない光景にキラの顔が涙で歪む。
「汚くないよ。キラのここ、ピンクで…とてもかわいい……」
「ひ…ゃ…あっ」
アスランは固く閉じたキラの蕾を解すように、柔らかな舌を這わした。
「あ、くぅ…ン…や、アスラ…っ」
ぬるりとしたそれに声を震わせながらも、キラはあまりの恥ずかしさに身体を捩る。そんなキラをアスランは押さえつけた。
「俺なら何されてもいいんじゃなかったのか?」
「で、でも、こんなの……」
「大丈夫だから…キラは感じていればいいんだ」
そう宥めながらキラに快楽を与えようと、ひくんと蠢く蕾を丁寧に舐めていく。
「ひぁっ、あ、アス……」
秘所を唇で覆われ、舌で舐め回されるうち、恥ずかしさより快楽が勝ってキラは息を上げて悶えた。
「ふぁ…っ…あ…い…いぃ…ッ」
「キラのここ、ヒクヒクしてるよ……」
「ひゃぁ…ぅっ」
緩んだ入り口を指で押し拡げられて、窄めた舌先を挿れられた瞬間、
「──ふぁっ…あぁ…やぁ…ッ」
キラは身体を大きく震わせて、白濁の蜜を放った。
「は…ぁ…あ…っ……」
思わず放ってしまったそれに呆然として、口内に溜った唾液を端から垂らす。
「キラ、まだ感じるだろ?」
「あ…あぁっ」
入り口を強く舐められれば、達したばかりの幼い自身がぴくぴくと動く。
アスランは唾液で濡れたそこに指を挿入した。
「っはぁ…ッ…」
「あぁ…キラの中、どろどろだな……」
湿り気を帯びた粘膜はアスランの指を取り込もうとするように収縮を繰り返す。その中を擦りつけていると、キラの自身はまた蜜を湛え始めて。
「キラ、可愛いい」
「ひぃ…ッ」
蜜を舐め取るアスランの舌に、キラの身体が不自然に跳ねた。
(このままじゃ僕…おかしくなっちゃう…っ)
先ほどから小刻みに震え続けている身体を止めることすらできない。
「っ…ふぇ…アス…僕…もぉ…っ」
ドレスに埋もれたアスランに向かって手を伸ばした。
「はぁ…っ…お願…い…ちょうだい……?」
紅潮した顔に懇願の涙を浮かべれば、身を起こしたアスランが微笑む。
「俺もお前が欲しいよ……」
アスランは濡れたキラの唇にキスをすると、指と引き換えに張り詰めた先端を宛てた。
「はぁ…アスラ…ン……」
うっとりと呟くと入り口を押し拡げて大きな塊が入ってくる。
「あぁ…ッ…ひぁ…」
「ッ…キラ、そんなに絞めたら入らないぞ」
「や…っ…だって…っ」
先端が入っただけで、待ち構えていたキラの身体は力が入り、アスランを締め付けてしまっていた。
「ほら、力抜いて…?」
「あ…ンン…っ」
腰をゆっくりと振りながら囁くアスランに、キラは力を抜こうと息を吐く。
「っあ…ふぁ…っ!」
それに合わせてアスランが突き立てると、張り出した頭がぐぷんと飲み込まれた。そうなってしまえば、あとはもっと奥まで欲するように壁がひくひくと蠢く。
「はぁ…っ…アスラ…ン…っ」
覆い被さってくるアスランの背中に腕を回した。アスランの熱が粘膜を伝ってキラの中に広がる。
ソファーの脚を軋ませながら、二人は快楽のままに身体を振った。
「キラ……」
「っあ…や…ッ」
入り口まで浅く引き抜かれる塊にキラがせつなげに声を上げると、アスランはそれを奥まで一気に突き上げてくる。
「くぅ…ン!あ、はぁ…っ」
脳天まで痺れてしまいそうなその衝撃に、キラは喉を反らせた。
「キラ?」
「っぁ…だめぇ…そんなにしたら…僕…ッ」
粘着質な音をたてながら繰り返されるその動きに、キラの身体が痙攣しだす。
「いいよ、キラ…イク時の可愛いい顔、見せて?」
「ひゃ…っ…あぁ…ン…アスラ…ッ」
アスランの腰の動きが速くなり、キラを追い詰めていく。
「ひぃ…っ…もぉッ…あぁ…ン、あぁぁ――…ッ」
キラは背を弓なりに反らし、絶頂を迎えて嬌声を上げた。
「キラ…俺も…ッ」
「っ…あ…あぁ……」
力の抜けた身体を揺さぶられたあと、内でどくんと脈を打ちながら奥に熱いものが注がれる。
(あ…アスランのが……)
彼も自分で感じて達してくれるのが嬉しい。
「…キラ……?」
ぐったりとしながらも微笑を浮かべるキラをアスランが覗き込んだ。そっと瞳を開けると、アスランも安堵したように微笑む。
「……こうしていると本当にお姫様みたいだな」
「え……」
「世界中の誰よりもかわいいよ、キラは……」
「アスラン……」
赤く染まった頬を撫でながら話すアスランに、キラの心はぎゅっと締めつけられた。
「……僕……本当にお姫様だったらよかったのにな……」
「キラ……」
本当のお姫さまだったら、おとぎ話の皇子様とお姫様のようにアスランと結婚して、ずっとずっと側にいられるのに─―
「……キラ……」
ふわっとアスランの香りがして、強く抱きしめられる。
「俺にとってキラは本物の姫だよ。どんなものよりキラを大切に思うから……」
「…アス…ラン…っ」
囁くアスランの声が、キラを本物のお姫様に変えてくれる気がした。
第3章 End