Eterinty
第2章 そして僕にできること
「キラ……」
「ン…っ……」
顎を持たれてキラの唇に降ってくるアスランの同じそれ。角度を変えてはより深く求められる口付けに、キラはその桜色の唇をうっすらと開いた。
──あれからアスランとともにこの城で暮らすことになったキラは、こうして何度とアスランと身体を重ねている。その度に彼でいっぱいになって、キラの受けてきた傷が消えていく感じがした。
(皇子……)
自分を求めてくれる人がこの世にいる……その幸せに酔いしれる。
自分は何もできないけど、この人のために生きたいと思った。
「いってらっしゃい!」
「あぁ、行ってくる」
政務に向かうアスランをキラは部屋の入り口で見送る。
アスランにはもちろん皇子としての立派な自室があるのだが、今はこうしてキラに与えられた部屋で過ごす事が殆どになっていた。
「さてと……」
キラはそう呟くと腕まくりをして、毎日の日課になっている部屋の掃除を始める。皇子がこの部屋で寝泊まりをするのだから、お目付け役のアーサーは「使用人にさせますから!」と言ってはいるものの、今のキラに出来ることといったらこのくらいしかなくて。無理やり頼み込んでやらせてもらっている。
アスランは自分のことを助けてくれた上に、とても大事にしてくれているのに、その自分が出来ることといったら本当にわずかで。
(皇子のために僕は何ができるんだろう……)
掃除をする手を休めてキラが考えていた時、レイが入ってきた。彼はこうして自室と化したこの部屋に、アスランが必要とする書類などを持ってくる。
レイはあまりキラと話をしようとはしない。それが何なのかキラにはわからなかった。今日もいつものように書類を机の上に置き、黙って出ていこうとするレイにキラは思い切って声をかけた。
「あ、あの!僕にも何か手伝えることってあるかな?」
どきまきしながら問うキラにレイは脚を止め、鋭く感じるその目でキラをちらりと見る。
「あなたは城の人間ではなく、客人です。そんな方に仕事を頼めるわけがないでしょう?」
冷たく言い放つ言葉にキラの身体が竦んだ。
「皇子はあなたに負い目があって置いているだけです。それに皇子はこの国にとって不可欠な方。深入れしないほうがあなたのためだ」
レイは何も言えず黙り込んだキラを置いて部屋を出ていく。残されたキラは、その顔を曇らせた。
(わかってるけど……)
自分は偶然ここにやってきた人間だ。深入れしないほうがいいというのも、いつまでもいられるわけがないということを前提においた忠告なのだろう。
やっぱり自分に出来ることなんて他にないのだろうか……。
自分の無力さにキラは大きな溜め息をついた。
◇◇◇
「あ、皇子おかえりなさい!」
「キラ、いい子にしていたか?」
「うん」
アスランの姿にとたとたと駆け寄る。
いつもは嬉しさについ飛びついてしまうキラだが、部屋に戻ってきた彼に今日は足を止めた。微笑んではいるが、その表情に疲れが見えて。
「あ、え…と……お仕事おつかれさま!お腹すいたよね?アーサーさん呼んで食事運んでもらおうか?」
キラは飛びつくのをやめると、くるりと向きを変えて話し出した。
「キラ……?」
一方、キラを受け止めるつもりでいたアスランは、飛びついてはこないキラに眉を顰める。
「キラ、どうしたんだ?」
「え?どうもしてないけど……」
「じゃあ、なんでいつもみたいに飛びついてこない?」
「…だって……」
アスランの怪訝そうな顔を見て、キラは俯いた。
「皇子が仕事で疲れてるのに…僕は何にもできないから……」
「キラ?」
「皇子は僕のこと、すごく大事にしてくれて…いっぱい嬉しい気持ちもらってるのに……」
だからせめて疲れている時くらい、そっとしてあげられることくらいしか出来ないんだ──そう言葉を紡いでいるうち、キラの目に涙が浮かぶ。
「…ごめん…なさい…僕……っ」
(こんな時に泣いたら余計に迷惑になるだけなのに…っ)
キラは泣くのを堪えるように唇を噛むと、手の甲で涙を拭き取った。
「キーラ、泣くな……」
キラの話に耳を傾けていたアスランがそっと栗色の頭を叩く。そしてキラの身体を腕の中に入れた。
「皇子……?」
「俺はキラがいてくれるだけで嬉しいんだ……」
「え?」
「キラが笑って俺を迎えてくれるだけで、嫌なことも疲れも一気に吹き飛んでしまう。キラがこうやって腕の中にいると安らげるんだ……」
キラの身体を抱きしめながら話すアスランの腕に力が入る。
(僕は……皇子の役にたってる──?)
自分の存在そのものがアスランのためになっていた──それを知ったキラの胸に熱いものが広がる。
「っ、皇子……っ!」
キラはアスランの胸に強く強くしがみついた。
「──あ……っ」
ベッドの上、身体を撫で上げる掌にその肌を桜色に染めてキラは甘い声を上げる。
「ひぁ…っ、あ、ン……」
下肢に手を伸ばせば、そこには既に張り詰め、蜜に濡れた自身が震えていた。アスランは脚を大きく開かせながら、それに指を絡める。
「あぁっ、ん」
びくっ、とキラの身体が跳ねるのを見下ろしながら掌で擦ると、先端からとろりと蜜が溢れた。それを塗りこめるようにくるくると撫で回され、キラは快感にびくびくと腹部を痙攣させる。
「あぁっ、おう…じ……っ」
堪らなくなってアスランを呼ぶと、彼は熱い目を向けながら微笑んだ。
「キラ。キラに出来ること、もうひとつあったよ」
「ふぇ……?」
「俺を名前で呼ぶこと」
「えぇ…っ?」
(な、名前って……)
アスランの名前を呼んだことなんてなかった。今、例えこんな関係でいたとしても、相手は『皇子』なのだ。
「…そん…なの…無理…っ…」
キラが頭を振ると、下肢にズキッ、と痛みが走る。慌ててみれば、アスランの指がキラの根元を強く握っていた。
「っ、や…っ」
「呼ばないのなら、このままだからな……」
「え…っ、あ、や…やだ…ッ、ひゃ…っ」
この状況にキラが困惑していると、アスランはもう片方の指を双丘の割れ目へと這わす。そして花が咲く前のように固く閉じられた小さな蕾に入れた。
「ッ!ひ…あぁっ」
指の挿入にキラは声を上げる。狭い壁を抉り、見つけられた敏感なしこりを擦られると激しい快感に襲われた。
「やぁ…っ!だ…めぇっっ…ひゃ…」
そうして絶頂へと追い上げられているのに、指の締め付けのせいでそれは叶わず、先端から蜜だけがたらたらと溢れてくる。
「キラ、呼んで?」
「う…っ」
アスランにそう顔を覗き込まれ、キラはぎゅっと目を瞑って。
「……ア…スラ…ン……っ」
その名前を口にした。
「キラ、もう一回」
「っ…アス…ラン……」
恥ずかしさに震える唇にキスが降ってくる。
キラがそっと目を開けると、嬉しそうに微笑んでいるアスランがいた。
「これからはそう呼ぶんだぞ?」
「え…で、でも……」
「キラには名前で呼んでほしい」
「…う…ん……」
キラがもう一度「アスラン」と小さく呟くと、彼は嬉しそうに笑った。
「──やっ、でちゃ…ああぁっ!」
開放されたアスランの手に、キラはすぐ白濁の蜜を放つ。
「んっ、ふ……」
吐息を漏らすキラの赤く染まった唇をキスで塞ぎながら、アスランは内に埋めた指をぐるりと回した。増やされた指で中を広げられながら執拗に擦られれば、キラの中心はまたひくりと勃ちあがって。そんな風にされていると、もっと熱く、滾るものが欲しくなってしまう。
「んンっ!んぅ…っ」
口内を深く貪られてうまく息ができず、キラはアスランの肩を必死に叩いた。
「んっ…は…ふ……」
アスランが唇を離すと、溢れた唾液がキラの口元を伝って落ちる。キラは潤んだ瞳でアスランを見上げた。
「…あ…僕、もぉ…っ…ほし…い……」
「何が欲しいんだ?」
そう聞かれると羞恥に顔が歪む。けれど彼を求めたい。
「ア…ス…ランが…ほしい…」
恥じらって小さく呟けば、アスランは微笑みながら秘部に自身の先端を押し当てた。ぐっと腰に力を入れれば、熱い塊がキラの中に入ってくる。
「ンっ…ぁ…あぁ…っ!」
固く張り詰めたそれはキラの中をいっぱいに満たして。 キラが歓喜に声を震わせていると、アスランは白く細い脚を掴んで自分の肩に乗せた。アスランをより深く迎え入れて、キラは悦楽に喘ぐ。
「ふぅ…ぅっ…ひっ…」
脚を目一杯広げて、唇をだらしなく開いて。恥ずかしすぎるのに気持ちよくてたまらない。
「キラ、締めつけ方が変わった」
「あぁ…っ!だ…だって…ぇ…っ…ひぁっ」
アスランは塊を入り口ぎりぎりまで抜くと、次の瞬間、奥まで一気に突いてきた。
「い…だ…めぇっ!そんなに…したら、ぼく…っ」
「いいよ、キラ、一緒に…」
「くぅ…っ…あぁッ、アスラ…アスラン…ッ」
「キラ…ッ…」
名前を何度も呼びながら、キラは絶頂へと昇り詰めていく。同時に果てる、その満ちた心地の中で瞳を閉じた。
自分にできることがあるのなら、それを精一杯守りたいと思った。
彼の安らぐ場所が、いつでもそこにあるように。
例え、それが永遠ではなくても、願いが続く限り、彼の傍にいようとキラは心に誓った。
第2章 End